混雑した店や行列を見ると、つい「買っておこう」と思うのはなぜか。社会的証明の心理の研究

混雑した店や、行列ができている様子を見て、予定になかった物までカゴに入れてしまった経験は多くの人にあります。それは意志が弱いからではありません。「周りにいる人の多さ」が「早く決めないと」という焦りを引き起こすことが、複数の研究からわかっています。ただし同じ「混雑」でも、人の多さと、通路や棚が物でふさがっている窮屈さとでは、心への働き方が違うようです。
3行でわかる
- 中国の人気スーパーでの調査では、周りの客の多さ(人の混雑)が衝動買いを増やす方向に働いていた一方、通路や棚が物理的に窮屈なこと自体は衝動買いと直接結びついていなかった(統計的に有意)。
- オーストリアのスーパーでの実地実験では、通路に陳列台を置いて物理的に混雑させる(動きにくくする)と、何もない時より売り場の売上の割合がむしろ下がった(4.83%→4.33%)。
- 「残りわずか」などの希少性の手がかりは、「他の人も買っている」という社会的証明の手がかりより強く「急いで決めないと」という切迫感を引き起こしていた。
01なぜ行列や人混みに弱いのか
周りにいる人の多さは「早く決めないと」という焦りを呼び起こしやすい。一方、通路が物でふさがれて動きづらいだけの混雑は、むしろ買い物の意欲を下げることもある。
行列や人混みを見ると、「これだけの人が欲しがっているなら、良いものに違いない」「今買わないと売り切れるかもしれない」と感じやすくなります。多くの人が選んでいる物は良いはずだと感じる心の働きを、心理学では社会的証明と呼びます。「残りわずか」「限定」といった表示も、同じように取り残される不安(FOMO)を強めます。これらは意志の強さとは関係のない、多くの人に共通する反応です。一方で、通路が商品や陳列台でふさがれて体を動かしにくいだけの「物理的な混雑」は、人の多さとは別の働き方をすることが研究からわかってきました。
02科学的にわかっていること
人の多さ(社会的な混雑)は衝動買いを後押しする一方、物や陳列台で通路がふさがれる「物理的な混雑」は、むしろ買い物の意欲を下げることがある。
Lu・Zhang・Xiao・Liu・Xi(2026)[1]
中国の人気スーパー「胖東来」の来店客を調べた調査では、周りの客の多さ(人の混雑)が衝動買いを増やす方向に働いていた。一方、通路や棚が物理的に窮屈なこと自体は、衝動買いと直接には結びついていなかった。むしろ通路の窮屈さは「楽しい」というポジティブな感情を下げ、それを介して衝動買いを減らす経路が確認された。
対象: 中国河南省の人気スーパー来店客565人への調査 / 限界: 1店舗・1地域での調査で、回答は本人の自己申告。混雑と衝動買いの因果関係は確認できない。
Streicher(2026)[2]
オーストリアのスーパー1店舗で、通路に陳列台を置いて物理的に混雑させ動きにくくした期間と、陳列台を外して通路を広くした期間の売上を比べた実地実験。通路を広くした期間の方が、売り場面積あたりの売上の割合が4.33%から4.83%へ上がった。商品を実際に手に取って確かめる客も、通路が空いている期間の方が多かった。買い物カゴを使う客は、カートを使う客より、混雑による「動けない」という感覚の悪化が小さかった(想定の場面への回答にもとづく実験)。
対象: オーストリアのスーパー1店舗で、11品目について陳列台のある6週間とない6週間の売上を比べたデータ、来店客578人の観察、追加のオンライン実験200人 / 限界: 1店舗での検証で、比較対象の店舗がない。短期的な値引きなど他の要因を完全には排除できない。
Pal・Milfelner(2026)[3]
オンラインショッピングの場面を想像してもらった調査では、「残りわずか」などの希少性の手がかりが「急いで決めないと」という切迫感を強く引き起こした。「他の人も買っている」という社会的証明の手がかりも切迫感を引き起こしたが、その効果は希少性よりかなり小さかった。切迫感は、周りに合わせたい気持ちとチャンスを逃す怖さの両方を強めていた。
対象: SNSで回答を募った121人(18〜34歳が多く、女性が約6割) / 限界: 実際の購買ではなく想定の場面への回答で、サンプルは偏っている。「希少性」と「切迫感」の質問が似た内容を聞いていた可能性も著者が指摘しており、因果関係も確認できない。
03今日からできる小さな一歩
混雑や「残りわずか」に心が動いても、その場で決めずに一度立ち止まる3つの行動が役立つ。
「残りわずか」を見たら3秒数える
その場で決める前に、本当に今必要かを3秒だけ考えます。焦りは時間を置くだけで和らぎやすくなります。
所要 10秒
買い物リストを先に作っておく
混雑した店でも、リストにない物は「後で考える」と決めておけば、焦りに流されにくくなります。
所要 1分
通路が窮屈なら、無理に長居しない
物でふさがった通路の窮屈さは、人の多さとは別物です。動きにくいと感じたら、それ自体がストレスのサインだと捉え、必要な物だけ決めて離れます。
所要 0秒(判断するだけ)
04続けるためのコツ
混雑や行列に心が動くのは多くの人に共通する反応であり、自分を責めずに、事前の基準に戻る練習を続けることが続けやすさにつながる。
- 混雑や「残りわずか」に心が動いた自分を責めない。多くの人に共通する反応だと知っておきます。
- 切迫感を感じたら、買い物リストや予算を一度見直す「保留の一呼吸」を習慣にします。
- SNSの「売り切れ間近」「〇人が見ています」といった表示も、同じ仕組みで働くことがあります。事前に決めた基準があるほど、流されにくくなります。
05よくある質問
「残りわずか」の表示は、全部疑った方がいい?
研究が示すのは、希少性の表示が焦りを引き起こしやすい傾向があるということです。表示そのものがすべて誤りというわけではありませんが、焦って決める前に一度立ち止まる価値はあります。
混雑した店を避ければ、衝動買いは減る?
研究では、衝動買いを後押ししていたのは主に「人の多さ」でした。通路が物でふさがって窮屈なだけの混雑は、むしろ買い物の意欲を下げる方向に働いていました。避けるべきは混雑そのものというより、焦って決めてしまう場面だと考えると整理しやすくなります。
出典
- Lu, Y., Zhang, X., Xiao, Y., Liu, D., & Xi, J. (2026). How Perceived Crowding Shapes Tourists' Impulsive Buying in Internet-Famous Supermarkets: The Roles of Bipolar Emotions and Brand Trust. Behavioral Sciences, 16(9), 1710. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13603945/
- Streicher, M. C. (2026). When merchandise crowds the aisle and carts crowd the shopper: Joint effects on sales. PLoS One, 21(4), e0346492. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13102192/
- Pal, S., & Milfelner, B. (2026). From Scarcity Cues and Social Proof to FoMO: A Dual-Mediation Model of Urgency in Consumer Decision-Making. Behavioral Sciences, 16(7), 1250. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13404449/


