お金の話を避けてしまうのはなぜか。「ダチョウ効果」の研究

通帳を見るのが怖い。明細を確認するのを後回しにしてしまう。これは意志が弱いからではない。お金が最も心配なタイミングほど、人は情報から目をそらしたくなる「ダチョウ効果」という傾向を持っている。
3行でわかる
- 口座残高がマイナスに近づくほど、人は口座を確認する頻度を減らすことが大規模な取引データで確認された。
- お金が増えているときほど頻繁に確認し、減っているときほど確認しなくなるという、逆方向の行動パターンが示された。
- 深刻な借金の問題を抱える人のうち75〜83%が、対処法について相談していないという報告もある。
01見たくない情報から目をそらす仕組み
残高が心配な水準に近づくほど、人はかえって確認する頻度を下げる。
アイスランドの人口の20%が利用する家計管理アプリの取引データを分析した研究では、口座残高がプラスからマイナスに近づくにつれて、利用者が口座を確認する頻度が下がることが確認された。逆に、収入が入ったときや残高に余裕があるときは、確認の頻度が上がる。本来なら残高が心配なときこそ確認して対策を取るべきだが、実際の行動はその逆に働く。この「都合の悪い情報を避ける」傾向は「ダチョウ効果」と呼ばれている。
02研究では何がわかっているのか?
お金の回避行動は、確認しないこと自体が状況をさらに悪化させる悪循環を生む。
Olafsson & Pagel(2018)[1]
アイスランドの家計管理アプリ「Meniga」の取引データ(利用者は国民の20%)を分析。口座残高がマイナスに近づき、超過引き出しの額が増えるほど、口座を確認する頻度が下がることを確認した。逆に株式市場が上昇しているときは投資家がポートフォリオを頻繁に確認するが、下落時には確認頻度が大きく下がる同様のパターンも見られた。
対象: アイスランドの家計管理アプリ利用者の取引記録データ(Review of Financial Studies掲載) / 限界: 特定の国・特定のアプリ利用者のデータであり、他の文化圏にそのまま当てはまるとは限らない。
Frontiers in Psychology掲載の研究[2]
借金に関する情報回避を扱った研究のレビュー。深刻な借金の問題を抱える人のうち75〜83%が、対処法についての相談をしていないことを報告した。お金を回避する人ほど、自分の毎月の支出額や口座残高といった基本的な情報すら正確に把握していない傾向も確認された。
対象: 借金の情報回避に関する既存研究のレビュー / 限界: レビュー論文であり、新しい実験データを追加したものではない。
米国の消費者調査[3]
米国人を対象にした調査では、62%がお金の話をすることに気まずさを感じると回答した。家族や友人との間でも、お金は最も避けられやすい話題のひとつとして繰り返し報告されている。
対象: 米国の消費者を対象にした調査 / 限界: 学術的な査読を経た研究ではなく、企業・メディアが実施した消費者アンケート。文化的背景が異なる日本にそのまま当てはまるとは限らない。
03今日からできる小さな一歩
「確認するかどうか」を毎回自分の意志で決めず、確認せざるを得ない仕組みを先に作る。
口座残高を確認する時間を先に予定に入れる
「見たくなったら見る」ではなく、毎週決まった曜日・時間に確認する予定をカレンダーに入れる。
所要 1分
残高通知をアプリで自動化する
一定額を下回ったら通知が届く設定にし、自分から見に行かなくても情報が届くようにする。
所要 5分
悪い数字を見ても「対策を決める場」と切り分ける
数字を確認する日と、対策を考える日をあえて分けると、確認そのものへの抵抗感が下がる。
所要 継続的に意識
04続けるためのコツ
確認を「反省会」にしない。事実を見るだけの日と、対策を考える日を分けるだけで気が楽になる。
- 残高を確認するたびに自分を責める習慣がついていると、確認自体がますます苦痛になり回避が強まる。確認は「今の事実を知るだけ」の作業と割り切り、対策を考えるのは別のタイミングにすると、回避のループから抜け出しやすい。
05よくある質問
お金が心配なときほど通帳を見なくなるのはなぜですか?
アイスランドの大規模な取引データを分析した研究では、残高がプラスからマイナスに近づくほど、口座を確認する頻度が下がることが確認されました。人は都合の悪い情報を避ける「ダチョウ効果」と呼ばれる傾向があり、お金が最も心配なタイミングほど確認しなくなるという矛盾した行動が起きます。
借金の相談をためらう人はどれくらいいますか?
Frontiers in Psychologyに掲載された研究では、深刻な借金の問題を抱える人のうち75〜83%が、対処法について相談していないことが報告されています。相談をためらう人ほど、自分の毎月の支出や口座残高について正確に把握していない傾向も確認されています。
出典
- Olafsson, A., & Pagel, M. (2018). The Ostrich in Us: Selective Attention to Financial Accounts, Spending, and Liquidity. The Review of Financial Studies, 31(11), 4398-4446. https://academic.oup.com/rfs/article-abstract/31/11/4398/5001204
- Frontiers in Psychology (2017). Debt-related information avoidance. https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2017.00327/full
- The Motley Fool. Americans Shy Away From Talking Money, Data Shows. https://www.fool.com/retirement/2019/07/31/americans-shy-away-from-talking-money-data-shows.aspx