お金の心配があると、判断がうまくできなくなるのはなぜか。「欠乏」の心理の研究

お金が足りない時期ほど、なぜか出費が増えたり、つい借りてしまったり、大事な手続きを忘れたりする。そんな自分を「だらしない」と責めていないでしょうか。研究では、お金の心配そのものが頭の容量を占め、判断の力を下げることがわかってきました。それは性格の問題ではなく、誰にでも起こりうる状態です。
3行でわかる
- お金の心配について考えてもらう実験では、収入の少ない人だけ、その後の認知テストの成績が下がった。収入の多い人では下がらなかった。
- 同じ農家を調べると、収穫前のお金がない時期は、収穫後のお金がある時期より認知テストの成績が低かった。
- 65の研究をまとめた分析では、借金がある人は精神的な不調を抱える割合が約3.2倍高かった。
01お金が足りないと、頭の中の余裕も足りなくなる
お金が足りない状態では、お金の心配に頭が占領され、ほかのことに使える注意や判断の力が少なくなると考えられています。
研究者は、人が一度に考えられる量には限りがあると考え、それを「頭の帯域」にたとえています。お金の心配が大きいと、その帯域の多くが心配に使われてしまいます。
そのため、目の前の支払いには注意が集中する一方で、ほかのことがおろそかになり、借りすぎなど、かえって状況を悪くする選択をしやすくなると考えられています。
大切なのは、これが「お金に困っている人の性格」の問題ではなく、お金が足りない状態が誰の頭にも生む変化だという点です。
02研究でわかっていること
お金の心配は判断の力を一時的に下げ、お金が足りない状態は注意の向け方を変えていました。借金は心の不調とも強く結びついていました。
Maniら(2013)[1]
お金の心配を思い浮かべる課題をしてもらうと、収入の少ない人だけ、その後の認知テストの成績が下がった。また、同じ農家を調べると、収穫前のお金がない時期は、収穫後のお金がある時期より認知テストの成績が低かった。この差は、時間、栄養、労働量、ストレスの違いでは説明できなかった。
対象: 実験の参加者と、収穫の前後で比べた農家 / 限界: 結果の解釈には議論もあり、ほかの状況で同じ効果が出るかは研究が続いている。
Shahら(2012)[2]
いくつかの実験で、資源が足りない状態に置かれると、人は目の前の問題に深く集中する一方、ほかの問題をおろそかにすることを示した。この注意の偏りが、借りすぎなどの行動を説明できるとしている。
対象: 複数の実験の参加者 / 限界: 実験室でゲームの資源を使って「足りない状態」を作った研究。
Richardsonら(2013)[3]
借金と健康の関係を調べた65の研究をまとめた。借金がある人は、精神的な不調が約3.2倍、うつが約2.8倍多く見られた。借金が重いほど健康状態が悪い傾向があったが、どちらが原因かははっきりしていない。
対象: 65の研究 / 限界: 多くが観察研究で、因果関係は確定していない。
Huang & Zhu(2026)[4]
中国の農村の住民468人を調べた。お金が足りないと感じている人ほど、計画を立てる力、注意、自己コントロールの力が低かった。計画を立てる力の低さは、将来より目先を優先する選択と結びついていた。
対象: 中国の農村住民468人 / 限界: 一時点の調査で、因果関係は確かめていない。
03今日からできる小さな一歩
お金が足りない時期は、大事な判断を減らし、仕組みで乗り切ることを考えます。自分を責める必要はありません。
支払いと手続きを書き出して「頭の外」に出す
支払日、締め切り、やるべき手続きを紙やスマホのメモに書き出します。頭の中で覚えておく負担を減らします。
所要 10分
大事な判断は、余裕のある時間に回す
借り入れや大きな買い物など大事な判断は、疲れている夜や、お金のことで頭がいっぱいの時を避けて、落ち着いたときに行います。
所要 判断するだけ
自動払いや先取りで、判断の回数を減らす
引き落としの設定など、毎回考えなくてもいい仕組みにできるものは、仕組みに任せます。
所要 15分
04続けるためのコツ
お金の心配で頭がいっぱいのときほど、一人で抱え込まないことが大切です。相談すること自体が、頭の負担を軽くします。
- 「だらしないからお金がない」のではなく、「お金がないから頭の余裕がない」こともあると知っておきます。
- 心配ごとを紙に書くと、頭の中で考え続ける負担が減ることがあります。
- 借りて返すことをくり返しているときは、早めに相談先に連絡します。
- 借金や支払いで生活が苦しいときは、消費生活センター(188)に相談できます。
05よくある質問
お金の心配と判断力について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
お金がないと頭が回らないのはなぜ?
お金の心配が頭の容量を占め、ほかのことを考える余裕を奪うためと考えられています。お金の心配を思い浮かべた実験では、収入の少ない人だけテストの成績が下がっていました。
お金に困っている人は、判断力が低いの?
そうではありません。同じ農家でも、お金がない時期とある時期で成績が変わっていました。判断の力は、その人の性格や能力ではなく、置かれた状態によって変わると考えられています。
借金があると心の健康に影響する?
関係があります。65の研究をまとめた分析では、借金がある人は精神的な不調を抱える割合が約3.2倍でした。ただし、どちらが原因かははっきりしていません。
お金の不安で頭がいっぱいのときはどうすればいい?
支払いや手続きを書き出して頭の外に出し、大事な判断は落ち着いた時間に回します。生活が苦しいときは、消費生活センター(188)に相談できます。
出典
- Mani, A., Mullainathan, S., Shafir, E., & Zhao, J. (2013). Poverty impedes cognitive function. Science, 341(6149), 976-980. https://doi.org/10.1126/science.1238041
- Shah, A. K., Mullainathan, S., & Shafir, E. (2012). Some consequences of having too little. Science, 338(6107), 682-685. https://doi.org/10.1126/science.1222426
- Richardson, T., Elliott, P., & Roberts, R. (2013). The relationship between personal unsecured debt and mental and physical health: A systematic review and meta-analysis. Clinical Psychology Review, 33(8), 1148-1162. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2013.08.009
- Huang, J., & Zhu, H. (2026). From financial scarcity to risk and time preferences: the role of executive functions. Frontiers in Psychology, 17, 1782444. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1782444