借金や利息を少なく見積もってしまうのはなぜ?「毎月の返済額」だけを見る心理と、指数的な増え方の見落とし

ローンや分割払いを組むとき、「毎月これくらいなら払える」で決めたことはありませんか。借金の大きさを少なく見積もるのは、計算が苦手だからとは限りません。人の頭は、毎月の額に目が向きやすく、返す期間の長さや、利息が利息を生む増え方を軽く見やすいことが研究でわかっています。
3行でわかる
- 借金を少なく見積もる理由の1つは「毎月の返済額」への集中。米国の大学生108人の実験では、5年・10年・15年のローンで払ってよい月額がほぼ同じ(平均360ドル・385ドル・351ドル)で、返す期間の長さが軽く見られていた。
- もう1つは、利息が利息を生む指数的な増え方を、直線のように感じるくせ(指数成長バイアス)。実際は約1万3,000になる増え方を、増加率で示された学生の答えの中央値は5,000だった。「何年で倍になるか」で示すと、答えは実際に近づいた。
- 目の前の楽しみを重く見る「現在バイアス」が強い人ほど、支払いに困った経験が多いという調査もある。仕組みを知れば、借りる前に総額と期間を確かめる習慣で補える。
01 悩みの正体借金や利息を少なく見積もるのは、計算が苦手だから?
借金を少なく見積もるのは、計算が苦手だからとは限らない。人は毎月の返済額に注目して返す期間と総額を軽く見やすく、利息が利息を生む増え方を直線のように感じやすい。どちらも多くの人に見られる心のくせだ。
ポイントは3つです。1つ目は、毎月の額ばかり見て期間を見ないこと。2つ目は、増え方を直線で考えてしまう「指数成長バイアス」です。指数的な増え方とは、元の額だけでなく、ついた利息にもさらに利息がつく増え方のことです。3つ目は、今の楽しみを先の負担より重く見る「現在バイアス」です。
リボ払いの最低支払額に引っ張られる仕組みはアンカリングの記事で紹介しました。この記事は、もっと広く、ローンや借入れ全般の見積もりがずれる理由を扱います。
02 科学的にわかっていること人は借金のどこを見落としやすい?
人は借金の「返す期間の長さ」と「指数的な増え方」を見落としやすい。期間を変えても払ってよい月額はほぼ変わらず、増加率で示された増え方は実際の半分以下に見積もられた。一方で、2つを並べたり倍になる年数で示したりすると、判断は正確に近づいた。
Shin ら(2020)[1]
米国イリノイ大学の学生108人に、5年・10年・15年のどれか1つのローンについて、毎月いくらまで払うかを聞いた。払ってよい月額の平均は360.06ドル、385.08ドル、351.32ドルで、期間による差ははっきりしなかった。著者らはこれを「期間の無視」と呼んだ。ところが10年と15年のローンを並べて見せると、15年の方に低い月額(334.76ドル対368.78ドル)をつけた。計算できないわけではなく、1つだけ見ると期間が意識から抜けていた。
対象: 米国の大学生108人(ほかにオンライン参加者の実験3つ) / 限界: 想像のローンについての回答。オンラインの実験2では、毎月の額を同じにして期間を40%延ばしても、借りたい気持ちははっきりとは下がらなかった。
Schonger・Sele(2021)[2]
スイスの理系以外の大学生227人に、指数的に増える数の30日後を予想してもらった。実際は約1万3,000になる問題で、増加率で示された組の答えの中央値は5,000だった。同じ増え方を「何日で倍になるか」で示された組の中央値は1万5,000で、実際に近かった。83%と91%の学生は「ほかの人は少なく見積もるだろう」と答えていた。それでも、増加率で示された組では見積もりが低かった。
対象: 2020年3月のオンライン実験(116人と111人) / 限界: 感染者数の増え方の問題で、お金の問題ではない。増え方を直感でつかむ難しさの例として読む。
Horn・Kiss(2020)[3]
ハンガリーの成人998人を代表するように選んだ対面調査で、35.6%が「今」を重く見る現在バイアスの傾向を示した。現在バイアスがある人ほど、光熱費やローンの支払いに困った経験が多いという関連が、ほかの条件をそろえても見られた。
対象: 2017年1月のハンガリーの調査 / 限界: 一時点の調査で、現在バイアスが支払いの困難の原因とまでは言えない。時間の好みは、実際のお金を払わない質問で測った。
Berlinger・Kiss・Khayouti(2022)[4]
ハンガリーの809人の電話調査で、コロナ禍のローン返済猶予を使ったかを調べた。気が長い人ほど返済猶予を使わなかったが、現在バイアスそのものには、はっきりした関連がなかった。現在バイアスが、借金にかかわるすべての行動を説明するわけではない。
対象: 2020年11月のハンガリーの調査 / 限界: 返済猶予という特別な制度についての調査で、ふだんの借入れには当てはまらない可能性がある。
03 今日からできる小さな一歩借りる前に、何を確かめればいい?
借りる前は、毎月の額ではなく「返し終わるまでの総額」と「返す期間」を書き出し、利息は「何年で倍になるか」で考える。年20%の利息なら、返さずにいると約4年で倍を超える。
日本の金融リテラシー調査(2016年、2万5,000人)にも、「10万円を年20%の複利で借り、何も返さなければ何年で倍になるか」という問題があります[5]。計算すると、1年後12万円、2年後14万4,000円、3年後17万2,800円、4年後20万7,360円です。4年目で倍を超えます。
| 年利 | 倍になるまでのおよその年数(72÷年利) | 10万円を返さずにいた場合の4年後 |
|---|---|---|
| 3% | 約24年 | 約11万2,551円 |
| 10% | 約7.2年 | 14万6,410円 |
| 15% | 約4.8年 | 約17万4,901円 |
| 20% | 約3.6年 | 20万7,360円 |
「72÷年利」は、倍になる年数を手早く出す目安として昔から使われている計算です。年1回利息がつく場合の計算で、実際の契約は利息のつき方や返済の仕方で変わります。
「毎月いくら」の横に「全部でいくら」「何年」を書く
ローンや分割の説明を見たら、返済総額と返済期間をメモに並べます。1つだけ見ると期間が抜けやすいので、必ず並べます[1]。
所要 3分
年利を72で割り、倍になる年数をつかむ
増加率より倍になる年数の方が、増え方を正しくつかみやすいという実験があります[2]。
所要 1分
期間が違う2つの返し方を並べて比べる
例えば「3年で返す」と「5年で返す」の総額を並べます。並べると、期間の差に気づきやすくなります[1]。
所要 5分
04 続けるためのコツ見積もりのくせと、どう付き合えばいい?
見積もりのくせは知識だけでは消えにくいので、借りる場面ごとに同じ手順で数字を確かめる仕組みにする。くせを知っていた学生でも、増加率で示されると見積もりは低かったため、記憶より紙やメモに頼る方が確実だ。
- 「今決めなくていい」を合図にする。現在バイアスが強い場面では、今の楽しみが先の負担より大きく見えます。申し込みは翌日に回し、総額を見直してから決めます。
- 今ある借金も、総額と残りの期間で書き出す。毎月の額だけで管理していると、終わりが見えにくくなります。返す順番は「小さな勝利」の研究で読めます。
- 一人で抱えない。借金を隠すくせや相談の先延ばしに気づく質問は10の質問の記事にまとめました。返済が苦しいときの相談先はお金の不安で動けないときの記事で紹介しています。
05よくある質問
借金を少なく見積もってしまうのはなぜ?
毎月の返済額に目が向き、返す期間の長さや総額を軽く見やすいためです。米国の大学生108人の実験では、5年・10年・15年のローンで払ってよい月額がほぼ同じでした。さらに、利息が利息を生む増え方を直線のように感じる「指数成長バイアス」も重なります。
指数成長バイアスとは?
指数的に増えるもの(利息が利息を生む借金など)を、一定の額ずつ増えるように感じて少なく見積もるくせのことです。スイスの学生の実験では、約1万3,000になる増え方の答えの中央値が5,000でした。
年20%の利息だと、借金は何年で倍になる?
年1回利息がつき、何も返さない場合、10万円は4年後に20万7,360円になり、4年目で倍を超えます。「72÷年利」で、倍になるおよその年数(20%なら約3.6年)を手早く出せます。
計算が得意なら、借金を見誤らない?
得意でも見誤ることがあります。実験では、ローンを1つだけ見ると期間を無視した学生も、2つを並べると正しく判断できました。くせを知っていた学生でも、増加率で示されると見積もりは低かったため、借りる前に総額と期間を書き出す手順が役に立ちます。
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出典
- Shin, F., Cohen, D., Lawless, R. M., & Preston, J. L. (2020). The Hedonics of Debt. Frontiers in Psychology, 11, 537606. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.537606
- Schonger, M., & Sele, D. (2021). Intuition and exponential growth: bias and the roles of parameterization and complexity. Mathematische Semesterberichte, 68, 221-235. https://doi.org/10.1007/s00591-021-00306-7
- Horn, D., & Kiss, H. J. (2020). Time preferences and their life outcome correlates: Evidence from a representative survey. PLOS ONE, 15(7), e0236486. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0236486
- Berlinger, E., Kiss, H. J., & Khayouti, S. (2022). Loan forbearance takeup in the Covid-era: The role of time preferences and locus of control. Finance Research Letters, 50, 103250. https://doi.org/10.1016/j.frl.2022.103250
- Okamoto, S., & Komamura, K. (2021). Age, gender, and financial literacy in Japan. PLOS ONE, 16(11), e0259393. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0259393


