「1人の写真」には寄付したくなるのに、大勢の統計には動かされないのはなぜか

困っている1人の子どもの写真と名前を見ると、思わず寄付したくなる。一方で、何万人が困っているという数字を見ても、実感がわかない。そんな経験はないでしょうか。これは「身元のわかる被害者効果」と呼ばれ、寄付の呼びかけでもよく使われてきました。ところが最近の研究では、この効果が思ったほど確かではないことがわかってきました。
3行でわかる
- 41の研究をまとめた2016年の分析では、身元のわかる1人の被害者の方が助けを集めやすい効果は、統計的には確認されたものの小さかった(相関 r=0.05)。
- 2,003人を対象にした事前登録の再現実験では、身元のわかる1人と、身元のわからない1人で、寄付したい気持ちに差は見られなかった。
- 266の結果(34万人以上)をまとめた2026年の査読前の分析では、全体の効果ははっきりせず、子どもが被害者の場合にだけ、ごく小さな効果が見られた。
01心を動かすのは、統計より「1人の物語」と言われてきた
「1人の物語は統計より人を動かす」という考えは広く信じられています。ただ、研究を集めて見直すと、その効果は条件によって大きく変わり、全体としては小さいことがわかってきました。
身元のわかる被害者効果とは、名前や写真のわかる1人の被害者の方が、大勢の被害者や匿名の被害者より、多くの助けや寄付を集めるという考えです。
この考えは心理学の定説とされ、募金や支援の呼びかけでも、1人の子どもの物語を紹介する方法がよく使われてきました。
しかし、同じ実験をくり返したり、多くの研究をまとめて調べ直したりすると、効果は小さかったり、見られなかったりしました。人を動かすものは、写真1枚だけで決まるわけではなさそうです。
02研究でわかっていること
身元のわかる被害者効果は、まとめて調べると小さく、再現実験では確認されませんでした。効果が出やすいのは、貧困に苦しむ子どもの写真などの限られた条件でした。
Lee & Feeley(2016)[1]
41の研究をまとめた。身元のわかる被害者の方が助けを集めやすい効果は、統計的には確認されたが小さかった(r=0.05)。効果がはっきり出やすいのは、被害者が1人の場合や、貧困に苦しむ子どもの写真があり、本人に責任がなく、お金の寄付を求める場合だった。
対象: 41の研究 / 限界: 研究ごとに条件がさまざま。
Majumderら(2024)[2]
有名な先行研究を、アメリカのオンライン参加者2,003人で事前に計画を登録して再現した。身元のわかる1人の被害者と、身元のわからない1人の被害者で、寄付したい気持ちに差は見られなかった。
対象: オンライン参加者2,003人 / 限界: オンラインでの仮定の寄付場面。
Smithら(2026、査読前)[3]
身元のわかる被害者効果を調べた266の結果(34万4,962人分)をまとめた。全体の効果は統計的にはっきりしなかった(r=0.04)。子どもが被害者の場合にだけ、ごく小さな効果(r=0.07)が見られた。
対象: 266の結果 / 限界: まだ専門家の査読を受けていない論文(プレプリント)。
Zhaoら(2024)[4]
脳画像を使った実験では、参加者はお金や体力を使って助ける場面で、身元のわかる被害者をより助けようとしていた。身元のわからない被害者のときは、相手の気持ちを想像する脳の部分がより強く働いていた。
対象: 脳画像実験の参加者 / 限界: 実験室での課題。
03今日からできる小さな一歩
寄付をするときは、心を動かされた写真だけで決めず、自分が支えたいことを先に決めておきます。
支えたい分野を1つ決める
子ども、災害、医療、動物など、自分が支えたい分野を先に決めます。目についた呼びかけにその都度反応するより、続けやすくなります。
所要 5分
寄付先の活動内容を確認する
寄付をする前に、団体の活動報告や会計報告を確認します。写真や物語の印象だけで判断しないようにします。
所要 10分
年間の寄付の予算を決めておく
年に使う寄付の金額を決めておくと、断るときにも罪悪感を持ちにくくなります。
所要 5分
04続けるためのコツ
寄付は、気持ちが動いたときだけでなく、決めた範囲で続けることも大切です。自分のペースで無理なく関わりましょう。
- 強い感情に訴える呼びかけを見たら、一度時間をおいてから判断します。
- 少額でも続けて寄付する方法もあります。
- 寄付をしないことに罪悪感を持つ必要はありません。
- 寄付を名目にした勧誘や詐欺に注意してください。不審な勧誘を受けたときは、消費生活センター(188)に相談できます。
05よくある質問
寄付と「身元のわかる被害者効果」について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
1人の写真に寄付したくなるのはなぜ?
顔と名前のわかる相手の方が、気持ちを想像しやすいためと考えられてきました。ただし、41の研究をまとめた分析では、その効果は小さいものでした。
身元のわかる被害者効果は本当にあるの?
はっきりしていません。2,003人の再現実験では差が見られず、266の結果をまとめた査読前の分析でも、全体の効果ははっきりしませんでした。
どんなときに寄付が集まりやすいの?
2016年の分析では、被害者が1人の場合や、貧困に苦しむ子どもの写真があり、本人に責任がない場合などに、効果が出やすい傾向がありました。
寄付先を選ぶときのポイントは?
写真や物語の印象だけでなく、団体の活動報告や会計報告を確認することです。支えたい分野を先に決めておくと選びやすくなります。
出典
- Lee, S., & Feeley, T. H. (2016). The identifiable victim effect: a meta-analytic review. Social Influence, 11(3), 199-215. https://doi.org/10.1080/15534510.2016.1216891
- Majumder, R., Tai, Y. L., Ziano, I., & Feldman, G. (2024). Revisiting the impact of singularity on the Identified Victim Effect: Replication and extension of Kogut and Ritov (2005a) Study 2. Judgment and Decision Making. https://www.cambridge.org/core/product/3DA967642DBCD4E6117CCA104F3D6854/core-reader
- Smith, A. E., MacInnes, S., Hornsey, M., & Chapman, C. M. (2026). The Identifiable Victim Effect: A Psychological Truism Reconsidered. PsyArXiv(査読前論文). https://doi.org/10.31234/osf.io/6we7y_v1
- Zhao, H., Xu, Y., Li, L., Liu, J., & Cui, F. (2024). The neural mechanisms of identifiable victim effect in prosocial decision-making. Human Brain Mapping, 45(2), e26609. https://doi.org/10.1002/hbm.26609
