お金のことを考えると、人に冷たくなるのか。「マネー・プライミング」の研究と再現

お金のことばかり考えていると、人に冷たくなるのでは。そんな不安を感じたことはないでしょうか。心理学には、お金を少し意識させるだけで、人が自分本位になるという有名な研究があります。ところが、その後の研究で同じ結果がなかなか得られず、今では効果そのものが疑われています。
3行でわかる
- 2006年の9つの実験では、お金を思い出させると、人に助けを求めなくなり、人を助けることも減り、ひとりで作業したがるようになった。
- その後、関連する4つの効果を大人数で再現しようとした研究では、効果はほぼゼロだった。36の研究室が参加した再現プロジェクトでも、効果を再現できたのは1つの研究室だけだった。
- 246の実験をまとめた分析では、全体としては効果が見られたものの、出版の偏りが強く疑われた。
01有名な発見ほど、確かめ直されている
「お金を意識させると人は自分本位になる」という研究は広く知られていますが、再現実験では確認されないことが多く、今では慎重に受け止められています。
マネー・プライミングとは、お金の写真や言葉など、お金を連想させるものを見せることで、その後の考えや行動が変わるかを調べる研究です。
2006年の研究は、お金を連想させるだけで人が自立志向になり、人を助けなくなると報告し、大きな話題になりました。
しかし心理学では、注目を集めた研究ほど、ほかの研究者が同じ方法で確かめ直すことが大切です。その結果、この効果は多くの再現実験で確認されませんでした。
02研究でわかっていること
お金を意識すると人に冷たくなるという結果は、大規模な再現実験では確認されませんでした。多くの実験をまとめた分析でも、出版の偏りが疑われています。
Vohsら(2006)[1]
9つの実験で、お金を思い出させる刺激を受けた人は、そうでない人より、人に助けを求めなくなり、人を助けることも減った。また、ひとりで遊んだり作業したりすることを好み、初対面の人との距離を広くとった。
対象: 9つの実験の参加者 / 限界: 下の再現研究などで、同じ結果が得られないことが指摘されている。
Rohrerら(2015)[2]
お金を意識させると不平等を受け入れやすくなるという先行研究の4つの効果を、大人数で再現しようとした。効果はほぼゼロ(d=0.03)だった。36の研究室が参加した別の再現プロジェクトでも、効果を再現できたのは1つの研究室だけだった。
対象: 大人数の再現実験 / 限界: 再現したのは関連する一部の研究。
Lodderら(2019)[3]
マネー・プライミングを調べた246の実験をまとめた。全体としては効果が見られた(g=0.31)が、出版された研究に偏りがあることを示す結果が複数の検定で見られた。効果が最も大きかったのは、実験室で実際にお金を手で扱わせる方法だった。研究者は、今後は事前登録した十分な規模の研究で確かめる必要があるとしている。
対象: 246の実験 / 限界: 偏りを補正した後の正確な効果の大きさは、まだはっきりしない。
03今日からできる小さな一歩
「お金のことを考えると冷たくなる」と心配しすぎる必要はありません。お金と人とのつながりを、どう両立させるかに目を向けましょう。
「お金の話=悪いこと」と決めつけない
お金について考えたり話したりすること自体が、人を冷たくするという強い証拠はありません。家計の話も、遠慮せずに始めてみます。
所要 意識するだけ
有名な心理学の話は「再現されたか」を確かめる
本やSNSで心理学の話を見かけたら、その後の研究で確かめられているかを気にかけます。
所要 数分
お金の使い道に、人とのつながりを入れる
家族や友人との食事、贈り物など、人と過ごすためのお金の使い道を予算に入れておきます。
所要 5分
04続けるためのコツ
心理学の研究は、くり返し確かめられて少しずつ確かになっていきます。一つの研究の結果を、自分や人を判断する決め手にしないことが大切です。
- 「○○すると人はこうなる」という話は、研究の数や規模によって確かさが大きく違います。
- お金について家族と話すことは、家計を守るうえでむしろ大切です。
- お金を大事にすることと、人を大事にすることは両立できます。
- お金のトラブルで人間関係がこじれているときは、消費生活センター(188)などの相談窓口も使えます。
05よくある質問
お金と人との関係について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
お金のことを考えると、人は冷たくなるの?
はっきりしていません。2006年の実験ではそうした結果が出ましたが、その後の大規模な再現実験では効果が確認されませんでした。
マネー・プライミングとは何ですか?
お金の写真や言葉など、お金を連想させるものに触れることで、その後の考えや行動が変わるかを調べる研究のことです。
なぜ有名な研究が再現されないことがあるの?
最初の研究の人数が少なかったり、効果が出た研究ばかりが出版されたりする「出版の偏り」があるためと考えられています。246の実験をまとめた分析でも、この偏りが疑われました。
お金の話を家族とするのはよくない?
お金について考えたり話したりすること自体が人を冷たくするという強い証拠はありません。家計を守るためにも、話し合うことは大切です。
出典
- Vohs, K. D., Mead, N. L., & Goode, M. R. (2006). The psychological consequences of money. Science, 314(5802), 1154-1156. https://doi.org/10.1126/science.1132491
- Rohrer, D., Pashler, H., & Harris, C. R. (2015). Do subtle reminders of money change people's political views? Journal of Experimental Psychology: General, 144(4), e73-e85. https://doi.org/10.1037/xge0000058
- Lodder, P., Ong, H. H., Grasman, R. P. P. P., & Wicherts, J. M. (2019). A comprehensive meta-analysis of money priming. Journal of Experimental Psychology: General, 148(4), 688-712. https://doi.org/10.1037/xge0000570
