クレジットカードのリボ払いはなぜやめられないのか?アンカリングの研究

リボ払いの残高がなかなか減らないのは、意志が弱いからではない。カードの利用明細に載っている「最低支払額」という数字そのものが、知らないうちに返済の基準点になってしまうことが、行動経済学の研究でわかっている。
3行でわかる
- 利用明細に「最低支払額」が示されるだけで、それが基準点(アンカー)になり、本来払えるはずの金額より少なく返済してしまうことが実験で確かめられている。
- 米国のクレジットカード口座の大規模データ分析では、口座の29%が最低額に近い金額を返済し続けており、その一部は最低額という表示そのものに反応していた。
- 「今の満足」を優先する傾向が強い人ほど、借りては返すを繰り返しやすいことも、別の研究で確認されている。
01リボ払いの正体を、やさしい言葉で
リボ払いは毎月の支払額が一定に見えるため、使った分だけ残高が増えていることに気づきにくい仕組みになっている。
リボ払い(リボルビング払い)は、その月にいくら買い物をしても、毎月の支払額をあらかじめ決めた一定額に固定できる仕組みだ。一括払いなら「使った分がそのまま来月の請求」になるが、リボ払いは「使った分」と「毎月払う額」が切り離されている。
この切り離しが、残高の増加に気づきにくくする一番の理由になる。買い物を重ねても口座から引かれる金額はほとんど変わらないため、「ちゃんと返済できている」という感覚だけが残り、実際の残高は水面下で膨らんでいく。
さらに、利用明細に表示される「最低支払額」という数字そのものが、返済を遅らせる方向に働くことが研究でわかっている。次の章で、その仕組みを見ていく。
02研究でわかっていること
最低支払額という表示自体が返済行動を縛る「アンカー」になり、借りては返すを繰り返す人の心理的な傾向も確認されている。
Stewart(2009)[1]
クレジットカードの利用明細に「最低支払額」の数字を示すかどうかを変えた実験を実施した。残高の一部だけを返済する利用者については、最低額が明細に示されている条件のほうが、示されていない条件よりも、実際に返済する金額が少なくなった。最低額という数字が、返済額を決める基準点(アンカー)として働いてしまうためだと説明されている。
対象: 実験参加者を対象にした研究(Psychological Science誌に掲載) / 限界: 実験的な設定での結果であり、カード会社ごとの明細デザインすべてに同じ効果が出るとは限らない。
Keys & Wang(2016/2019)[2]
米国の一般的なクレジットカード市場の約4分の1を占める大規模データセットを分析したところ、口座の29%が最低支払額に近い金額を返済し続けていた。カード会社が最低支払額の計算方法を変更したときの反応を調べた結果、少なくとも口座の9〜20%は、資金的な制約だけでは説明できないほど最低額の変化に合わせて返済額を変えており、アンカリングの影響があると結論づけている。なお、米国の制度(CARD Act)で導入された「もっと早く完済できる返済額」の表示を実際に選んだ口座は、1%未満にとどまった。
対象: 2008〜2013年の米国のクレジットカード口座データ / 限界: 米国の制度・市場を前提にした分析であり、日本のリボ払いの仕組みにそのまま当てはまるとは限らない。
Meier & Sprenger(2010)[3]
米ボストン市の住民を対象に、報酬を伴う選択実験で「今の満足を優先する度合い(現在バイアス)」を測定し、その結果を参加者本人の実際のクレジットレポートや納税データと照合した。収入やその他の条件をそろえても、現在バイアスが強い人ほど、クレジットカードの借金の額が有意に多いことが確認された。
対象: 米ボストン市の住民 約600人 / 限界: 対象がボストン市内に限られ、相関関係を示すデータであり、他の都市や国でも同じ結果になるとは限らない。
多重債務者の消費行動に関する研究(2010)[4]
日本貸金業協会が提供するオンライン診断ツールの利用データを分析したところ、多重債務者には、自己コントロール力や計画性の低さ、楽観的な考え方、金銭管理への意識の低さに加え、衝動的でその場の満足を重視する傾向が強いことが示された。行動経済学の「現状維持バイアス」の視点からは、今の消費の満足を優先するために、借りては返すという行動を繰り返しやすいと説明されている。
対象: 日本貸金業協会のオンライン診断ツール利用者である多重債務者 / 限界: 自己回答に基づくデータであり、すべての多重債務者に当てはまるとは限らない。
03今日からできる小さな一歩
「最低支払額」という数字を基準にせず、自分で返済額を決め直す仕組みを先につくっておく。
今月のリボ残高と、最低額以外に払える金額を確認する
カード会社のアプリかWeb明細で、現在の残高と最低支払額がいくらになっているかをまず確認する。
所要 3分
返済額を「最低額」より一段多い固定額に設定し直す
カード会社の設定画面で、毎月の返済額を最低額ではなく、無理のない範囲で少し多い金額に変更する。
所要 5分
新しい買い物をリボ払いの対象に追加しない設定にする
カードの設定で「新規購入は一括払い」を選べる場合は切り替え、残高をこれ以上増やさないようにする。
所要 3分
04続けるためのコツ
最低支払額の表示を「基準」ではなく「下限」として扱い、返済額を自動で増やす仕組みを作っておくと続けやすい。
- カード会社によっては、返済額を「最低額」よりあらかじめ多い固定額に自動設定できる場合がある。毎月判断し直す必要がなくなるぶん、最低額という数字に引き戻されにくくなる。
- 「気づいたら半年前より残高が増えていた」と感じる人は少なくない。これは意志の弱さではなく、支払額と利用額が切り離された仕組みそのものが気づきにくくしているためで、自分を責める必要はない。
05よくある質問
リボ払いの残高が減らないのはなぜ?
毎月の支払額が一定に見える一方で、新しい買い物をするたびに残高だけが増えていくためです。さらに、明細に示される「最低支払額」という数字が返済額を決める基準点になりやすく、実際に払える金額より少なく返済してしまう人が多いことが研究でわかっています。
リボ払いを今すぐやめることはできる?
多くのカード会社では、設定を変更して新しい買い物を一括払いに切り替えたり、返済額を増やしたりすることができます。すでに残高が大きく、返済が難しいと感じる場合は、一人で抱え込まず、消費生活センター(局番なしの188)などの公的な相談窓口に相談する方法もあります。
出典
- Stewart, N. (2009). The Cost of Anchoring on Credit-Card Minimum Repayments. Psychological Science, 20(1), 39–41. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02255.x
- Keys, B. J., & Wang, J. (2019). Minimum Payments and Debt Paydown in Consumer Credit Cards. Journal of Financial Economics, 131(3), 528–548. (NBER Working Paper No. 22742, 2016) https://www.nber.org/papers/w22742
- Meier, S., & Sprenger, C. (2010). Present-Biased Preferences and Credit Card Borrowing. American Economic Journal: Applied Economics, 2(1), 193–210. https://doi.org/10.1257/app.2.1.193
- 現状維持バイアスと心理的特徴の関係:多重債務者の消費行動から. パーソナルファイナンス学会 (2010). https://cir.nii.ac.jp/crid/1542261570159860096