クーポンや割引で「得した」と感じたいのはなぜか。「お得感」と支出の研究

クーポンがあるから、ついでにもう1品。割引されているから、今買わないと損。そうやって、使うつもりのなかったお金を使ってしまうことはないでしょうか。研究では、クーポンや割引で「得した」と感じると、その分を別の買い物に使ってしまいやすいことがわかっています。
3行でわかる
- ネットスーパーの購買データでは、10ドル引きのクーポンを使った日は、使わなかった日より、食料品の支出がかえって1.59ドル増えていた。増えたのは、ふだん買わない商品だった。
- 店内で予想外のクーポンを受け取った人は、買い物かごの金額が増え、予定外の買い物も増えていた。
- 値引きの研究では、割引で「得をした」と感じると気が大きくなる一方、「いくら使ったか」に注目すると、その効果は消えた。
01人は「物の価値」だけでなく「お得感」にもお金を払う
人は商品を、その物の価値だけでなく、「いくら得したか」という感覚でも評価します。行動経済学ではこれを「取引効用」と呼びます。
経済学者のセイラーは、人が買い物をするとき、物そのものから得られる満足に加えて、「普段より安く買えた」という取引の満足も感じていると考えました。
この「お得感」は、それ自体が気持ちのいいものです。そのため、必要かどうかよりも、得をするかどうかで買い物を判断してしまうことがあります。
また、クーポンで浮いたお金は、思いがけず手に入ったお金のように感じられ、「浮いた分で別の物を」と使ってしまいやすくなります。
02研究でわかっていること
クーポンを使うと、浮いたお金以上に支出が増えることがありました。予想外のクーポンは、予定外の買い物も増やしていました。
Milkman & Beshears(2009)[1]
ネットスーパーの客が10ドル引きのクーポンを使ったときと使わなかったときの購入を比べた。クーポンを使った日は、食料品の支出が1.59ドル増えていた。増えた支出は、その客がふだん買わない商品に向けられていた。浮いたお金を、心の中で別の「臨時のお金」として扱っていると考えられた。
対象: アメリカのネットスーパーの購買データ / 限界: ワーキングペーパーとして公開された分析。
Heilmanら(2002)[2]
店内で予想外にもらえるクーポンの効果を、店舗での実験と購買データで調べた。予想外のクーポンを使うと、買い物かごの金額が増え、予定外の買い物の数も増えていた。
対象: 店舗での実験と購買データ / 限界: アメリカのスーパーでの研究。
Thaler(1985)[3]
人の買い物の判断を説明する「心の会計」のモデルを提案した。人は物そのものの価値に加えて、「どれだけ得な取引か」という満足(取引効用)を感じて判断していると考えた。
対象: 理論の提案 / 限界: 理論の論文で、実験データは限られる。
Wangら(2026)[4]
4つの研究で、値引き商品を買うと「得をした」と感じて気が大きくなり、食べ物を捨てやすくなることを示した。ただし、「いくら得したか」ではなく「いくら使ったか」に注目すると、この効果は消えた。
対象: 大学の食堂でのフィールド実験を含む4つの研究 / 限界: 食べ物の廃棄を調べた研究。
03今日からできる小さな一歩
クーポンや割引を見たら、「いくら得するか」ではなく「いくら使うか」で考えます。
「いくら使うか」で考える
「500円引き」ではなく「今日いくら払うか」に注目します。使う金額に目を向けると、お得感に流されにくくなります。
所要 数秒
クーポンのための買い物をしない
もともと買う予定の物にだけクーポンを使います。クーポンを使うために商品を探し始めたら、立ち止まります。
所要 数秒
浮いた分は、すぐ貯金に回す
クーポンで浮いた金額を、その場で貯金用の口座やアプリに移します。浮いたお金で別の物を買うのを防げます。
所要 1分
04続けるためのコツ
クーポンや割引は、上手に使えば家計の助けになります。大切なのは、必要な物にだけ使い、浮いたお金を別の買い物に使わないことです。
- 割引率より、割引後の値段が予算に合うかで判断します。
- アプリの通知でクーポンが届いても、すぐに開かず、必要な物があるときだけ確認します。
- 「今日まで」「期間限定」のクーポンほど、本当に必要かを考えます。
- クーポンや割引を口実にした勧誘でトラブルになったときは、消費生活センター(188)に相談できます。
05よくある質問
クーポンと割引について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
クーポンを使うと、なぜかえって支出が増えるの?
クーポンで浮いたお金を「臨時のお金」と感じ、別の物に使ってしまうためと考えられています。ネットスーパーの研究では、10ドル引きのクーポンを使った日の支出が1.59ドル増えていました。
「お得感」とは何ですか?
物そのものの価値とは別に、「普段より安く買えた」という取引の満足のことで、行動経済学では「取引効用」と呼ばれます。
予想外のクーポンをもらうとどうなる?
店内で予想外のクーポンをもらった人は、買い物かごの金額が増え、予定外の買い物も増えていました。
お得感に流されないコツは?
「いくら得するか」ではなく「いくら使うか」に注目することです。値引きの研究でも、使った金額に注目するとお得感の効果が消えていました。
出典
- Milkman, K. L., & Beshears, J. (2009). Mental Accounting and Small Windfalls: Evidence from an Online Grocer. SSRN Working Paper. https://doi.org/10.2139/ssrn.1018382
- Heilman, C. M., Nakamoto, K., & Rao, A. G. (2002). Pleasant Surprises: Consumer Response to Unexpected In-Store Coupons. Journal of Marketing Research, 39(2), 242-252. https://doi.org/10.1509/jmkr.39.2.242.19081
- Thaler, R. (1985). Mental Accounting and Consumer Choice. Marketing Science, 4(3), 199-214. https://doi.org/10.1287/mksc.4.3.199
- Wang, Y., Xu, W., & Sarigöllü, E. (2026). Do Promotions Make Consumers More Wasteful? The Effect of Price Promotion on Consumer Food Waste Behavior. Behavioral Sciences, 16(4), 495. https://doi.org/10.3390/bs16040495