家計簿が続かないのはなぜ?記録の負担を減らす研究

家計簿を始めても、数週間で記録が止まってしまう。これは面倒くさがりだからではなく、「予算は時間が経つと効力が薄れる」ことと、「悪い知らせが来そうなときほど確認を避けてしまう」という2つの心理が同時に働くためだと、研究でわかっています。
3行でわかる
- 予算を立ててから時間が経つほど、その予算が支出を抑える力を失っていくことが研究で確認されています。
- 銀行口座の残高がマイナスに近いときほど、人は口座を確認する頻度を下げる「ダチョウ効果」が起きます。
- 自動でSMS通知を送るようにしたところ、超過引き出し手数料が4〜19%減少した実験があります。
01なぜ家計簿は続かないのか?
家計簿が続かないのは、能動的に「見る」という行動そのものが、状況が悪いときほど避けられやすい性質を持っているためです。
家計簿や家計簿アプリは、基本的に自分から開いて記録・確認する必要があります。しかし人は、悪い知らせを予期すると、その情報を積極的に避ける傾向があります。これは「ダチョウ効果」と呼ばれ、まさに家計が苦しいとき、つまり一番記録を続けてほしいタイミングで、記録をやめてしまう原因になります。
02研究では何がわかっているのか?
「予算の効力が薄れること」と「悪い状況ほど確認を避けること」の両方が、記録の継続を妨げる方向に働きます。
Choe & Kan(2021)[1]
不動産購入の実データ・フィールド調査・3つの実験を組み合わせた研究で、予算を立ててから実際の購入までの期間が長いほど、消費者が予算を超過しやすくなることがわかりました(「予算の減価」と呼ばれる現象)。
対象: 不動産購入者の実データおよび実験参加者 / 限界: 一度きりの大きな買い物を対象にした研究であり、日常の細かい支出にそのまま当てはまるかは別途検証が必要。
Olafsson & Pagel(2018)[2]
アイスランドの家計簿プラットフォームのデータを分析したところ、銀行口座・貯蓄口座・クレジットカード口座の残高がマイナスのとき、人々がその口座を確認する頻度が下がる傾向が見られました。
対象: アイスランドの個人金融プラットフォーム利用者 / 限界: アイスランドという特定の国のデータであり、他国でも同様の傾向があるかは別途検証が必要。
Grubb ら(2025)[3]
英国の6大銀行を対象にした2017年のフィールド実験で、顧客を自動的にSMS残高通知プログラムへ登録したところ、超過引き出しや未払い手数料が4〜19%減少しました。
対象: 英国大手6銀行の顧客(2017年) / 限界: 銀行預金口座の超過引き出し対策が中心で、支出全般の家計管理への応用効果は別途検証が必要。
03記録の負担を減らすには何をすればいいのか?
自分から「見に行く」設計をやめ、情報が自動で届く設計に切り替えることが効果的です。
残高通知をオンにする
銀行アプリの「残高が一定額を下回ったら通知」機能を有効にする。自分から確認しに行かなくてよくする。
所要 3分
毎月同じ日に予算を立て直す
予算は時間が経つと力を失うため、月初めなど決まったタイミングで毎回「立て直す」習慣にする。
所要 10分
確認を避けたくなったら、それ自体を記録する
「見たくない」と感じた日があれば、その感覚だけメモしておく。状況を把握する最初の一歩になる。
所要 1分
04この対策を続けるコツは何か?
毎日の手入力を前提にせず、通知や自動化に任せられる部分を増やすほど続けやすくなります。
- 「毎日必ず記録する」という完璧主義は挫折の原因になりやすいです。通知が来たときだけ確認する、月1回だけ見直す、といった負担の少ないルールに切り替える方が長く続きます。
05よくある質問
なぜ家計簿は続かないのですか?
予算を立ててから時間が経つほど、その予算が支出を抑える力を失っていくことがChoe & Kan(2021)の研究でわかっています。さらに、家計の状況が悪いときほど人は確認を避ける「ダチョウ効果」という心理も働くため、一番見るべきタイミングで記録が止まりがちです。
ダチョウ効果とは何ですか?
悪い知らせを避けるために、あえて情報を確認しない心理のことです。Olafsson & Pagel(2018)のアイスランドでの研究では、銀行口座の残高がマイナスのときほど、人々が口座を確認する頻度が下がることが示されました。
自動化された通知は本当に効果がありますか?
効果が確認されています。英国の6大銀行を対象にした2017年のフィールド実験(Grubb et al., Journal of Finance)では、口座残高が少なくなったときに自動でSMS通知を送るようにしたところ、超過引き出し手数料が4〜19%減少しました。
家計簿アプリを使えばそれだけで安心ですか?
いいえ。アプリを開いて確認する行為自体が「ダチョウ効果」の影響を受けるため、能動的にチェックする設計のアプリは、状況が悪いときほど見られなくなるリスクがあります。プッシュ通知のように自動で届く設計の方が、確認漏れを防ぎやすいと考えられます。
出典
- Choe, Y., & Kan, C. (2021). Budget Depreciation: When Budgeting Early Increases Spending. Journal of Consumer Research, 47(6), 937-958. https://academic.oup.com/jcr/article-abstract/47/6/937/5918031
- Olafsson, A., & Pagel, M. (2018). The Ostrich in Us: Selective Attention to Personal Finances. NBER Working Paper 23945.(解説: CEPR VoxEU) https://cepr.org/voxeu/columns/ostrich-us-selective-attention-personal-finances
- Grubb, M. D., et al. (2025). Sending Out an SMS: Automatic Enrollment Experiments for Overdraft Alerts. The Journal of Finance.(解説: Boston College) https://www.bc.edu/content/bc-web/sites/bc-news/articles/2025/spring/study-shows-text-message-alerts-significantly-reduce-overdrafts.html