家族間でお金の価値観が違うのはなぜか。マネースクリプトの研究

同じ家計を共にしているのに、お金の使い方でどうしても意見が合わない。それは相手が非常識なのではなく、幼少期に無意識に刷り込まれた「お金についての信念」が、そもそも違う可能性が高い。
3行でわかる
- お金に関する無意識の信念は「お金回避」「お金崇拝」「お金ステータス」「お金警戒」の4タイプに分類され、それぞれ実際の収入・資産と関連することが確認されている。
- 夫婦間のお金の対立を分析した研究では、公平さや責任感に関わる対立ほど関係の満足度を下げやすいことが示された。
- 一方で、日常的な少額の出費についての意見の違いは、むしろ会話のきっかけとして関係を強める場合があることもわかっている。
01お金の価値観は「刷り込まれている」
お金についての信念の多くは、本人が自覚しないまま幼少期の家庭環境から受け継がれている。
行動経済学・心理療法の分野では、こうした無意識のお金の信念を「マネースクリプト」と呼ぶ。422人を対象にした調査で、お金に関する72項目の信念への同意度を分析したところ、人々の信念は大きく4つのパターンに分かれることが示された。これらは幼少期に家庭や文化の中で無意識に形成され、世代を超えて受け継がれる傾向があるとされる。家族間でお金の使い方が噛み合わないのは、性格の違いというより、この刷り込まれた前提そのものが違うためである可能性が高い。
02研究では何がわかっているのか?
お金の対立は「金額」より「価値観のズレ」が引き金になりやすく、対立の種類によって関係への影響も変わる。
Klontz & Klontz(2011)[1]
422人を対象に、お金に関する72項目の信念への同意度を調査。信念は「お金回避(お金を持つことへの罪悪感)」「お金崇拝(お金があれば幸せになれるという信念)」「お金ステータス(お金を自己価値と結びつける)」「お金警戒(お金への強い不安・過度な倹約)」の4タイプに分類され、そのうち3タイプが実際の収入・純資産と有意に関連していた。
対象: 422人を対象にした調査(Journal of Financial Therapy掲載) / 限界: 自己申告のアンケートに基づくもので、信念が形成される具体的な家庭環境までは特定していない。
Peetzら[2]
Redditの深刻な金銭トラブル投稿1,014件と、既婚者481人が振り返った日常的なお金の対立を分析した2部構成の研究。「公平さ」「責任感」に関わる対立は関係の満足度を下げやすい一方、日常的な少額の出費についての意見の違いは、かえって会話やコミュニケーションのきっかけとして関係を強める場合があることを確認した。
対象: Reddit投稿1,014件、既婚者481人のアンケート(Journal of Social and Personal Relationships掲載) / 限界: Redditのデータは特に深刻なケースに偏っている可能性がある。
既婚男女500人アンケート[3]
既婚男女500人を対象にした調査。お金に関して夫婦喧嘩をすることがあると答えた人は59.6%にのぼり、その原因の1位は「金銭感覚の違い」で44.2%だった。具体的な出費の金額そのものより、価値観の違いが最大の火種になっていることがうかがえる。
対象: 日本国内の既婚男女500人 / 限界: 学術的な査読を経た研究ではなく、企業が実施した消費者アンケート。
03今日からできる小さな一歩
相手の「お金の使い方」を正そうとする前に、その背景にある価値観を尋ねてみる。
自分の「お金の信念」を振り返る
お金回避・崇拝・ステータス・警戒の4タイプのうち、自分がどれに近いかを考えてみる。
所要 5分
相手に「なぜそう感じるか」を尋ねる
出費そのものを非難する前に、その判断の背景にある価値観や育った環境を聞いてみる。
所要 10分
「公平さ」に関わる対立だけは早めに話し合う
日常の少額の対立は後回しでもよいが、負担の不公平感や責任感に関わる対立は先送りしない。
所要 継続的に意識
04続けるためのコツ
お金の話し合いを「対立の解消」ではなく「価値観のすり合わせ」として続けると、負担なく習慣化しやすい。
- 日常的な少額の出費についての意見の違いは、無理に一致させる必要はない。むしろ会話のきっかけとして活用し、公平さや責任感に関わる大きな対立にだけエネルギーを使う、という線引きが現実的。
05よくある質問
マネースクリプトとは何ですか?
Klontz & Klontz(2011)が提唱した、幼少期に家庭や文化の中で無意識に刷り込まれるお金に関する信念のことです。「お金回避」「お金崇拝」「お金ステータス」「お金警戒」の4タイプに分類され、それぞれが実際の収入や資産と関連することが確認されています。
お金の喧嘩を減らすにはどうすればいいですか?
研究では、日常的な少額の出費についての意見の違いはむしろ会話のきっかけになり関係を強める一方、公平さや責任感に関わる対立は関係の満足度を下げやすいことが示されています。金額そのものより「なぜそう考えるか」の背景を話す方が、根本的なズレの解消につながりやすいです。
出典
- Klontz, B., & Klontz, T. (2011). Money beliefs and financial behaviors: Development of the Klontz Money Script Inventory. Journal of Financial Therapy, 2(1). https://journals.newprairiepress.org/jft/article/5730/galley/5682/download/
- Peetz, J. et al. Journal of Social and Personal Relationships. Fighting about money study pinpoints key themes in financial disagreements among couples. https://www.psypost.org/fighting-about-money-study-pinpoints-key-themes-in-financial-disagreements-among-couples
- DIME. 既婚男女500人アンケート、お金に関する夫婦喧嘩の原因調査. https://dime.jp/genre/1910617/