「もったいない」から、やめられないのはなぜか。サンクコストとジム会費の研究

高いお金を払った映画がつまらなくても、最後まで見てしまう。ほとんど行っていないジムの会費を「せっかく入ったから」と払い続けている。そんな経験はないでしょうか。研究では、すでに払って戻ってこないお金(サンクコスト)が、これからの判断を引っ張ることがはっきり確かめられています。
3行でわかる
- サンクコストを調べた98の結果をまとめた分析では、すでに払ったお金が判断に影響する効果がはっきり確認された。この効果は時間がたつと弱まり、高齢の人ほど起きにくかった。
- 821人の再現研究では、お金だけでなく、費やした時間についても同じような効果が見られた。
- 月70ドル以上の定額会費を選んだジム会員は、平均月4.8回しか通わず、1回10ドルの都度払いより高い、1回あたり17ドル以上を払っていた。
01戻ってこないお金が、今の判断を引っ張る
すでに払ってしまって戻ってこないお金を「サンクコスト(埋没費用)」と呼びます。これからの判断では本来考えなくていいものですが、人はそれを取り戻そうとして、続けることを選びがちです。
「払った分を無駄にしたくない」という気持ちは自然なものです。しかし、すでに払ったお金は、続けても、やめても戻ってきません。
それにもかかわらず、払った金額が大きいほど、人は「やめたら損」と感じて、楽しくない映画を見続けたり、使わない会員を続けたりします。
さらに、人は契約するとき、自分がこれからどれくらい使うかを多めに見積もりがちです。そのため、使わない定額サービスにお金を払い続けることになります。
02研究でわかっていること
すでに払ったお金に判断が引っ張られる効果ははっきり確認されています。ジムの会員は、自分が通う回数を多く見積もり、割高な会費を払い続けていました。
Rothら(2015)[1]
サンクコスト効果を調べた98の結果をまとめた。すでに払ったお金が、使い続けるか、続けるかの判断に影響する効果がはっきり確認された。使うかどうかの判断では、時間がたつと効果が弱まっていた。また、高齢の人ほどこの効果が起きにくかった。
対象: 98の結果をまとめたメタ分析 / 限界: 判断の種類によって効果の大きさが異なる。
Petrovら(2023)[2]
アメリカのオンライン参加者821人で、「お金のサンクコストより時間のサンクコストの方が影響が弱い」という先行研究を再現した。一部の課題では違いが見られたが、別の課題では、お金にも時間にも同じようにサンクコスト効果が見られた。
対象: オンライン参加者821人 / 限界: 仮定の場面への回答。
DellaVigna & Malmendier(2006)[3]
スポーツクラブの会員を調べた。月70ドル以上の定額会費を選んだ人は、平均で月4.8回しか通っておらず、1回あたりにすると17ドル以上払っていた。1回10ドルの都度払いもあったため、会員期間中に約700ドルを余分に払っていた。研究者は、人が自分の自制心を過大評価していると考えた。
対象: スポーツクラブの会員 / 限界: 特定のクラブのデータ(内容は全米経済研究所の論文要旨で確認)。
03今日からできる小さな一歩
続けるかやめるかは、払ったお金ではなく「これから」で判断します。定額サービスは、実際に使った回数で見直します。
「今日ゼロから始めるとしても続けるか」と考える
払ったお金はいったん忘れて、今から始めるとしてもお金と時間をかけるかを考えます。
所要 1分
定額サービスの「1回あたりの値段」を計算する
月の会費を、実際に使った回数で割ります。都度払いや他の方法より高いなら、見直しのサインです。
所要 5分
使った回数を3か月記録してから決める
ジムや習い事は、3か月分の実際の利用回数を記録し、見積もりと比べてから続けるかを決めます。
所要 1日数秒
04続けるためのコツ
やめることは「損を確定させる」ことではなく、「これからの損を止める」ことです。そう考えると、決断しやすくなります。
- 契約前に、自分が使う回数を少なめに見積もってみます。
- 「もったいない」と感じたら、それがすでに払ったお金への気持ちなのかを確かめます。
- やめる判断をした自分を責める必要はありません。研究では、時間がたつほどこの効果は弱まっていました。
- 解約の手続きでトラブルになったときは、消費生活センター(188)に相談できます。
05よくある質問
サンクコストと「もったいない」について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
サンクコスト効果とは何ですか?
すでに払って戻ってこないお金や時間に引っ張られて、続けた方が損な場合でもやめられなくなる心理です。98の結果をまとめた分析で、はっきり確認されています。
ジムの会費がもったいなくてやめられないのはなぜ?
払ったお金を無駄にしたくない気持ちと、自分がこれから通う回数を多めに見積もる傾向が重なるためと考えられています。研究では、定額会員は平均月4.8回しか通っていませんでした。
時間をかけたものもやめにくい?
821人の研究では、お金だけでなく、費やした時間についても同じような効果が見られました。
年を重ねると「もったいない」に引っ張られにくくなる?
98の結果をまとめた分析では、高齢の人ほどサンクコスト効果が起きにくい傾向がありました。
出典
- Roth, S., Robbert, T., & Straus, L. (2015). On the sunk-cost effect in economic decision-making: a meta-analytic review. Business Research, 8(1), 99-138. https://doi.org/10.1007/s40685-014-0014-8
- Petrov, N. B., Chan, Y. K. M., Lau, C. N., et al. (2023). Sunk Cost Effects for Time Versus Money: Replication and Extensions Registered Report of Soman (2001). International Review of Social Psychology, 36, 17. https://doi.org/10.5334/irsp.883
- DellaVigna, S., & Malmendier, U. (2006). Paying Not to Go to the Gym. American Economic Review, 96(3), 694-719.(NBER Working Paper 10819「Overestimating Self-Control: Evidence from the Health Club Industry」で内容を確認) https://www.nber.org/papers/w10819